沖下 昌寛 SJ

  筆者は、二十代前半で約五年間ひきこもった経験をもち、今年五十四歳ですが「ひきこもり支援」を始めています。その個人事情は多くの人びとにとっては関わりのないことですが、筆者は元ひきこもりの当事者の立場から発言しているために、私の語りとして述べています。
  長い間ひきこもり体験を自分の背にしていました。しかしある時自分自身に直面するつもりでふり返ってみたのですが、過去を前にしても何もできませんでし た。今度は未来に後ろを見せたことになっていました。やがて後ろを振り向くのではなく一歩退いて前を向き、ひきこもり当時の自分に立って、今これからのこ とを考えるようになりました。
  そうして少しずつ元ひきこもりだったと話すようになりました。しかし話してもあまり理解されず、「どうして、なぜ」と聞き返されたのです。答えに困り 「話しにくければ、いい。しかしそれでは説明にならない」と言われたのでした。実はただ話をしたいのではなく、そうだったことをそのまま認められたいので す。そもそもひきこもりには原因がないケースもあり、私の場合も理由がなく説明できないのです。また今のところ「ひきこもり」は当事者にとって不利なこと で触れたくないものでもあり、訳の分からないもののように扱われているのではないのでしょうか。当事者には社会的な場がまだ与えられていないのです。
  内閣府は平成22年2月に「ひきこもりに関する実態調査」を実施、満15歳から満39歳の5,000人を対象にしました。本稿では(1)から(9)まで の調査項目の内、(5)と(7)を取り上げ、「狭義のひきこもり」と「準ひきこもり」を合わせた「広義のひきこもり(ひきこもり群)」に関して、また「ひ きこもり親和群」に関して定義を考えてみましょう。考えるというのは、このような資料は自分では手に取らない人のために読み聞かせるようにです。
  ひきこもり始めたきっかけ、あくまできっかけであって原因ではないのですが、項目〔その他〕の回答がもっとも多く25.4%です。項目〔病気〕 23.7%、〔職場になじめなかった〕23.7%となっています。〔就職活動がうまくいかなかった〕20.3%と〔職場になじめなかった〕23.7%を合 わせてみると44.0%になり、ひきこもりのきっかけは仕事であり就職のようです。学校関係の項目では〔不登校(小学校・中学校・高校)〕11.9%、 〔大学になじめなかった〕6.8%、〔受験に失敗した(高校・大学)〕1.7%となっていて、学校や受験がひきこもりのきっかけになるのは20%弱です。 ひきこもり状態からみるかぎり不登校とひきこもりは大きなつながりはないようです。
  「ひきこもり群」の人たちの66.1%は関係機関に相談したいとは「思わない」と回答しています。少し思う16.9%、思う8.5%、非常に思う6.8%の合計が32.2%です。
  「(Q25) 現在の状態についてどのような機関なら相談したいと思いますか(○はいくつでも)」では、〔親身に聴いてくれる〕32.2%、〔精神科医 がいる〕27.1%、〔無料で相談できる〕23.7%、〔自宅から近い〕20.3%のように回答しています。仮に相談するなら近所に無料の精神科医がいて 親身に聴いてくれたら、と考えて良いかもしれません。しかし、〔あてはまるものはない〕13.6%、〔相談したくない〕27.1%です。調査では〔相談し たくない〕と回答した人たちにさらに質問を続けています。〔行っても解決できないと思う〕31.3%、〔自分のことを知られたくない〕18.8%、〔何を きかれるか不安に思う〕〔行ったことを人に知られたくない〕6.3%などの項目を選んでいる一方で〔その他〕31.3%、〔あてはまるものはない〕 25.0%と回答しています。また、続けて〔相談したくない〕以外の項目を選んだ人たちに、「相談したことはありますか(○はひとつだけ)」と質問し、回 答は〔ある〕50%、〔ない〕50%です。
「ひきこもり群」  「(5)ひきこもりの状態に関すること」の「Q20 ふだんどのくらい外出しますか」のうち次にあげた5~8にあてはまり、6ヶ月以上続いている者を 「広義のひきこもり」としています。このうち5にあてはまる者を「準ひきこもり」、6~8にあてはまる者を「狭義のひきこもり」として定義しています。

5.ふだんは家にいるが、自分の趣味に関する用事のときだけ外出する
6.ふだんは家にいるが、近所のコンビニなどには出かける
7.自室からは出るが、家からは出ない
8.自室からほとんど出ない

  ただし、自宅で仕事をしたり、家事や出産育児のためにふだんは家にいる人たちを除いて考えています。また、筆者はひきこもり当時「7.自室からは出るが、家からは出ない」状態でした。
  調査対象5,000人中、一時不在、拒否、転居などの理由で調査できなかった1,713人を除いて3,287人から調査票を回収しています。2009年 人口推計では、15歳~39歳人口が3,880万人です。すると「広義のひきこもり(ひきこもり群)」は有効回答者数59人、1.79%、69.6万人に なります。このうち、「狭義のひきこもり」が0.61%23.6万人、「準ひきこもり」が1.19%46.0万人です。「ひきこもり群」の性別に関して、 男性は66.1%、女性は33.9%、男女比はおよそ男性2に対して女性1になります。
  年齢から見ると、15歳~19歳15.3%、20歳~24歳20.3%、25歳~29歳18.6%、30歳~34歳22.0%、35歳~39歳 23.7%になります。この調査は「青少年に関する調査研究」の一つとして実施されたためか39歳までを対象としています。仮に40歳~44歳、45 歳~49歳、50歳~54歳、55歳~59歳、60歳~64歳までを加えて調査したら、推計した人数は2倍になるのでしょうか。なお筆者のひきこもり当時 の年齢は20歳~24歳(20.3%)とほぼ重なります。
ひきこもりを始めた年齢は、14歳以下8.5%、15歳~19歳25.4%、20歳~24歳22.0%、25歳~29歳16.9%、30歳~34歳 18.6%、35歳~39歳5.1%です。ひきこもりは若者の問題と思われているところがあるようですが、この調査をみるかぎり30歳を過ぎてからひきこ もっている人たちが23.7%いることが分かります。
  ひきこもりの期間は、6ヶ月~1年23.7%、1年~3年30.5%、3年~5年13.6%、5年~7年11.9%、7年以上16.9%です。これをみ ると3年までの人たちが約半数、と同時に7年を超えて長期化している人たちもかなりいます。この期間というのは、この調査時点でのひきこもり経過期間です から、ひきこもりを終えて社会生活を再開するまでのひきこもり期間ではありません。
「ひきこもり親和群」  「(9) 自分についてあてはまること」の「Q 27」の1~14のうち次にあげる11~14の4項目がすべて〔1.はい〕、または3項目が〔1.はい〕で1項目が〔2.どちらかといえばはい〕と答えた 者から「ひきこもり群」を除いた者を「ひきこもり親和群」として定義しています。

11.家や自室に閉じこもっていて外に出ない人たちの気持ちがわかる
12.自分も、家や自室に閉じこもりたいと思うことがある
13.嫌な出来事があると、外に出たくなくなる
14.理由があるなら家や自室に閉じこもるのも仕方がないと思う

  「ひきこもり親和群」は、3.99%、155万人です。性別を見ると、男性は36.6%、女性は63.4%、男女比はおよそ男性1に対して女性2になり ます。年齢は、15歳~19歳が30.5%と多くなっています。「ひきこもり親和群」は女性と10代に多いのが特徴でしょうか。
  「ひきこもり群」と「ひきこもり親和群」の男女別推定数を単純に比較してみると次のようになります。「ひきこもり群」男性46万人、女性23.6万人、「ひきこもり親和群」男性56.7万人、女性98.3万人です。仮に次のように考えて見ましょう。100万人近い女性たちが「ひきこもり群」と同じような 心の特性を持ちながら実際にはひきこもらないのだとしたら、心の健康を保つために役立つ何かがあるのではないのでしょうか。「ひきこもり親和群」の女性た ちはどうしているのか、できればたずねてみたいと思います。